産経新聞前ソウル前支局長をめぐる動き(写真:産経新聞)

 【ソウル=藤本欣也】昨年11月に始まった産経新聞の加藤達也前ソウル支局長のソウル中央地裁における公判は17日、1年以上の時間を費やして幕を閉じた。判決までに10回を数えた公判では、強引な在宅起訴をもとに進められた特異な裁判を象徴するように、さまざまな問題点が浮き彫りになった。

 まず、名誉毀損(きそん)の“被害者”とされた朴槿恵(パク・クネ)大統領自身が加藤前支局長のコラムをどう考えているのか、また加藤前支局長の処罰を望むのかについて最後まで明らかにされなかった。

 そもそも検察は、被害者の意思を明示しないまま名誉毀損での在宅起訴に踏み切った。それが可能だったのは、韓国では法律上、第三者が名誉毀損で告発できるためだ。朴大統領への名誉毀損で加藤前支局長を告発したのは右翼団体のリーダーらだった。日本を含む多くの国は、「被害者本人が告訴しなければ名誉毀損で起訴できない」という親告罪を適用している。

 これに対し、韓国における名誉毀損の特徴は、被害者が「処罰を望まない」という意思を示さない限り、公訴できる点にある。つまり、被害者が処罰を望まない意思を示した場合、公訴自体が無効になる反意思不罰罪を適用している。

 このため弁護側は公判を通じて、朴大統領の意思確認を繰り返し求めた。しかも、「反意思不罰罪が適用されるのは事実上、1審のみ」(司法関係者)で、1審判決後に被害者が「処罰は望まない」と表明しても判決は変わらない。

 検察側は公判で、大統領府の広報首席秘書官が昨年8月、加藤前支局長に対し「民事、刑事上の責任を最後まで問う」と表明したことを、朴大統領の意思と主張。10月の論告求刑公判でも「被害者は強い処罰を求めている」と強調した。

 これに対し、弁護側は「あくまでも大統領府という一機関の見解にすぎない。被害者は大統領府ではなく朴大統領個人」と真っ向から対立。結局、李東根(イ・ドングン)裁判長は大統領府秘書官の証人尋問などを認めず、“被害者”朴大統領の声は封印されたままで終わった。