山あいの集落を通る国道に、1本の「見えない線」が引かれていた。福島県田村市内にある東京電力福島第1原発から20キロの地点。集落の区長を務める農業、吉田修一さん(58)は「ここを境に賠償の内容が変わるんです」とアスファルトの路面を指さした。  集落の原発20キロ圏は「避難指示解除準備区域」に指定されているが、その外側を囲む20~30キロ圏の住民の中には「20キロ圏の人とは会話をする機会が減った」と漏らす人もいる。避難指示区域は財物や精神的損害への賠償が続いているのに、20~30キロ圏の住民は財物賠償は対象外、その他の賠償も平成24年に打ち切られた。住民の心にわずかなひずみが生まれたのか。  20~30キロ圏の50世帯ほどのうち家族全員が帰宅した家は1割程度。残りは20キロ圏と同様、放射線量への不安から避難を続けている。吉田さんは「避難先の家賃など負担が大きいのに、賠償は打ち切られ、生活は本当に厳しい」と話す。市へ格差の是正を求めているが、担当者は「重く受け止めます」「検討します」と繰り返すだけという。