空手道場で練習に励む松本魁翔くん。得意技のまわし蹴りをみせる=9日、宮城県気仙沼市(財満朝則撮影)(写真:産経新聞)

 東日本大震災直後、宮城県気仙沼市の被災地で「水をくむ少年」が産経新聞などに掲載され、そのけなげな姿は多くの人の感動を誘った。その少年は松本魁翔(かいと)くん(12)=同市立鹿折(ししおり)小6年。10月28日に開催された全東北・北海道防具付空手道大会の個人、団体戦で、ともに優勝を果たした。「支えてくれたみんなに恩返しができたかな」。ぎゅっと唇をかみしめて歩いた1年8カ月。握りしめていたペットボトルは、輝くトロフィーに変わっていた。

 優勝を決めた瞬間、母親のいつかさん(33)とその腕に抱かれた妹、結愛(ゆうあ)ちゃんに駆け寄った。「優勝したよ」。あどけない表情で見上げる生後2カ月の妹を抱き上げた。これまで数々の大会で優勝してきたが、震災後、初の全国レベルの大会での優勝は格別だった。

 気仙沼市鹿折地区で生まれた。鹿折小で授業を受けていたとき、震災に見舞われた。机の下に潜り込み、揺れが収まると教師の指示に従って学校裏の高台へ逃げた。眼下では、友達や姉の麗華さん(14)とともに住み慣れた町が、津波にのみ込まれていた。

 「怖かった。家が海に近かったのと津波がとても大きかったから、お母さんは大丈夫かなってずっと心配だった」

 いつかさんには夜に再会できたが、同市新浜町の自宅は土台を残して全壊。親族14人が6畳のアパートに集まって共同生活を始めた。

 愛用の空手着や防具、賞状やメダルも集めてきた試合のトーナメント表も、すべて流された。がれきが散乱する町では、遊ぶこともできない。

 「悲しくて、怖くて、何も言えないような気持ちだった。それでも、何か自分にできることをしようと思って始めたのが水くみ。外に出て歩けたから、今思えばストレス発散にもなっていたのかな」

 その姿が通信社のカメラマンに撮影され、国内外に配信された。俳優の高倉健さん(81)が新聞から切り抜き、映画の台本に貼り付けたという逸話も生んだ。