今年3月、米軍が重大な発表を行った。中国がスカボロー礁周辺海域の測量を行っており、いずれ人工島の造成を始めるのではないか、というのである。
 もしスカボロー礁が軍事拠点化したら、フィリピンの喉元にまで中国軍が進出してくるだけではない。ウッディー島、ファイアリークロス礁、スカボロー礁を結ぶ、南シナ海の「戦略的トライアングル」が完成され、この地域の覇権を中国が完全かつ面的に掌握することになる。それは言い換えれば、中国が日本や韓国の生命線であるシーレーンを押さえるのみならず、対米核抑止力としての第2撃能力、即ち米国からの第1撃の核攻撃に対して場所が特定困難な潜水艦から核ミサイルを報復攻撃する能力、を握ることになるのである。
 こうした中国の野望を阻止する方法としてまず必要なのは、今回の仲裁裁判で、フィリピンの主張が国際的な司法判断として認められることだろう。
 もちろん中国は、そうした判断を受け入れず、スカボロー礁の軍事拠点化に手を染めるかもしれない。しかしそうなると、昨年来言われている米軍のフィリピン再駐留が急がれることになる。
 筆者は今年4月に寄稿した「海自護衛艦『カムラン湾寄港』の読み方」の中で、中国は南シナ海に「力の空白」が生じるたびに進出を繰り返した、と論じた。1992年、米軍はフィリピンのスービック海軍基地から完全撤退し、そこに力の空白が生まれた。が、一昨年、フィリピンと米国は、米軍によるフィリピンの軍事基地使用を盛り込んだ新軍事協定に署名。米海軍はスービック港に戦闘機やフリゲート艦を再度常駐させる計画だという。
 もしこれが早期に実現すれば力の空白は埋まり、中国のスカボロー礁軍事拠点化を阻止することが可能となる。どちらが先手を打つのかによって、南シナ海情勢は大きく変わるだろう。