震災の日に生まれた下沢さくらちゃん。元気よく階段を駆け上がる=岩手県宮古市(鴨川一也撮影)(写真:産経新聞)

 寝ていた生後5カ月の弟が泣き始めると、おままごとの手がとまった。小さな体で弟を抱きかかえ、お母さんのもとへ連れていく。「ありがとう」。ほめられて笑顔になる。でも、お姉さんらしく強がった。「重くないよ。軽かったよ」

 5年前の3月11日、岩手県宮古市の病院で、東日本大震災発生直前の午後2時19分に生まれた下沢さくらちゃん。妹の歩未(あゆみ)ちゃん(3)に続き昨年10月に弟の源治君が生まれ、姉の自覚が強まった。

 昔はよく母親の悦子さん(37)の膝の上に乗ったが、今は「ちっちゃい子が優先!」と我慢。「一日一日、成長している」。悦子さんは幸せをかみしめる。

 だが、ふと寂しさもこみ上げる。「孫の顔、見たかっただろうな」。悦子さんは自身が赤子のときに離婚で生き別れた実母を津波で失った。再会したのは震災約3カ月前。宮古駅前で突如話しかけてきた女性は「あなたのお母さんだよ」と告げた。母だった。

 悦子さんは「いまは『産んでくれてありがとう』と思う。産んでくれたから、私はかわいい子供をつくれた」と話す。

 「さくら」の名前には、厳しい冬の後、人の心を明るくする桜のような存在になってほしいという思いを込めた。「家族や家を失い、落ち込む人に『あのとき生まれた子が元気だから、私も元気を出す』と思ってもらえたら」